親族間でのスムーズな法人事業承継のための相続税対策
法人経営において、税理士は経営者の「女房役」ともいえる、最も身近な専門家です。
事業承継時の納税負担が、現経営者から後継者に事業承継する際の障壁となります。
本コラムでは主に親族間での事業承継について税金や節税対策について解説していきます。
事業承継で発生する税金
事業承継時に発生する税金は以下の3つです。
- 所得税・住民税
- 贈与税
- 相続税
また、承継方法によって負担する税金・納税者が異なるため、税金の種類や承継方法についてそれぞれ解説していきます。
所得税・住民税
他人への譲渡によって事業承継した場合は、譲渡所得が得られるため、経営者は所得税・住民税を支払わなければなりません。
譲渡所得そのものではなく譲渡所得益に課されるため、譲渡所得に掛かった費用を除いて計算します。
所得税・住民税=譲渡所得益(譲渡所得-(取得費用+譲渡費用))×(所得税率(15%)+住民税率(5%))
贈与税
現経営者から生前のうちに、後継者が財産(事業)を引き継いだ場合は贈与税が適応されます。
贈与税には「暦年課税」「相続時精算課税」があり、それぞれの活用方法は、後ほど税務対策の章にて別途解説いたします。
贈与税が課される対象に応じて、「一般贈与財産」「特例贈与財産」に分けられます。
適用対象は以下の通りです。
| 贈与対象 |
---|---|
一般贈与財産 | 兄弟間、夫婦間、父母の18歳未満の子 |
特例贈与財産 | 18歳以上の父母、祖父母などの直系親族 |
暦年課税では基礎控除後(110万円)の課税価額に応じた贈与税率は、基礎控除後の課税財産額に応じて10~55%と段階的に課税されます。
相続税
相続税が発生するケースは、現経営者の死亡に伴い、後継者が相続により事業承継した場合です。
相続税額は累進課税制度を取るため、事業規模が大きくなるほど税率が上昇し、税率は10〜55%と相続額で大きく異なります。
事業承継ごとで負担する税金と納税者
承継手段は以下の3つから選択できます。
- 譲渡
- 贈与
- 相続
選択した手段によって、納税者や税種が異なるため、以下の表で簡易的にまとめました。
承継手段 | 納税者 | 税種 |
---|---|---|
譲渡 | 経営者 | 所得税・住民税 |
贈与 | 後継者 | 贈与税 |
相続 | 後継者 | 相続税 |
譲渡のみ納税者が異なります。
贈与と相続は後継者が受けて引き継ぐ納税者が後継者となる一方、譲渡は経営者が事業を引き渡す経営者が納税者です。
親族間での事業承継で活用可能な税務対策
ここでは親族間での事業承継の際に活用可能な税務対策について解説いたします。
具体的な対策方法は以下の通りです。
- 事業承継税制の利用
- 贈与税の制度の活用
事業承継税制の利用
事業承継税制は、現経営者から後継者が自社株式を譲り受けた場合に、一定の要件を満たせば贈与税や相続税の納税が猶予され、後継者から次期後継者への株式承継の際は猶予された税金が免除されます。
後継者不足に悩む中小企業向けの税制対策として、最も効果が期待できる対策であり、次期後継者の見込みが立てやすい、親族内承継には特に相性の良い制度と言えます。
2026年3月まで申請可能な「特例措置」、「一般措置」に分かれ、それぞれの特徴については以下の通りです。
| 一般措置 | 特例措置 |
---|---|---|
適用期間 | なし | 2027年12月31日まで |
特例承継計画の提出 | 不要 | 必要 |
対象株数 | 株式総数の3分の2 | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与:100% 相続:80% | 100% |
後継者 | 筆頭株主となる、後継者1名 | 持ち株比率10%以上の後継者3名 |
雇用確保要件 | 承継から5年間で平均80%以上の雇用維持 | なし |
経営環境変化に対応した減免 | なし | あり |
特例措置の利用には特例承継計画の提出が必要ですが、雇用確保要件の撤廃や後継者の人数の拡大など、より多くのメリットを享受できます。
贈与税の制度の活用
贈与税の「暦年課税」と「相続時精算課税」の利用ができ、会社の資産状況や株価、贈与期間に合わせて選択する必要があります。
基礎控除を併用した生前贈与
暦年課税であれば、毎年110万円ずつの基礎控除が受けられます。
早い段階で後継者が決定していれば、毎年基礎控除額の範囲内で株式の贈与を進めれば、大きな節税効果が期待できます。
株価の変動を考慮しながら利用すると、より効果的に基礎控除額を活かしながら贈与が可能です。
相続時精算課税制度の活用
相続時課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の直系親族への生前贈与で利用可能な制度です。
暦年課税との併用はできませんが、基礎控除額が2,500万円になり、基礎控除後の課税率が暦年課税では最大55%なのに対し、相続時精算課税であれば一律20%の税制が適用されます。
贈与期間が短い場合に、効果的な対策です。
まとめ
事業承継は後継者不足に悩む多くの中小企業が抱える課題です。
後継者の有無や、資産状況に合わせた税務対策を実施することで大きな節税が期待でき、円滑な事業承継により事業の存続を可能にします。
しかし、税務対策の選定と実行は、自社株価の変動や制度利用要件の把握など、専門知識が求められるため、効果的な税務対策の実施には、相続に特化した会計事務所への相談がおすすめです。
事業承継にお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
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職歴 |
平成8年〜10年 大手住宅メーカー 平成11年~平成15年 大手PCサポート会社 平成16年~平成19年 石田会計事務所(現税理士法人名古屋石田会計)
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OFFICE
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